玉木教授から研究推進・論文作成の心構え

(その1)研究を推進する際の心得

 大学での研究に進め方について紹介しましょう。大学院などに入ると、その本文は当然研究を推進することになります。それぞれの大学、あるいは研究科、研究院には看板となる優れた研究を展開している研究者がおられるので、その門戸を叩くことになるでしょう。ぜひ最先端の研究に触れてみて、その醍醐味を味わってほしいものです。研究指導をされる教員の元に配属されることになります。その先生の指導に基づいて、研究の一端を担うことが求められます。そこでは研究の手法を学び、その内容が社会にどのように役立つかを知ることに繋がります。また研究者の姿をふれて、将来進む道を考える良い機会ともなります。優れた研究者に刺激を受けて、自分自身も日夜研究に従事するようになるでしょう。
 私自身の研究生活を振り返ってみると、大学院生時代および大学院終了後数年間が人生にとって最も研究のできた時期でした。この時期に多くの研究論文を公表しました。今でもこれらの論文がよく引用されています。現在の研究体制の基盤の基本となっています。うれしいことに国内外からの著名な研究者が私の論文のことをよく覚えていてくれ、研究成果を評価してくれます。
私自身の研究の経験に基づいて、これから研究を推進する若手の方々のために、いろいろな助言をしています。まずは最先端の研究に触れてその内容の素晴らしさを味わってほしい、と伝えることにしています。

 ここで魅力ある研究を推進するための心構えを整理してみましょう。

1) 取り組もうとする研究テーマの目標をしっかり定めること。まずは文献などでその分野の研究の状況を把握することが必要。その研究分野で何が課題となっているのか、これまでどの程度研究が進んでおり、どの領域が手つかずになっているか、などを知ることは大切。このような背景を把握した上で、しっかりとした研究目標を立ててほしい。

2) 自分の研究テーマが現在世界の研究者のどの程度の位置にあり、価値があるのか、をしっかり見定めること。他の競争相手がないなら、じっくり研究を推進したらよい。逆に競争になっている場合には、その競争に勝ち抜くためできるだけ速やかに論文(場合によっては特許申請)まで進めていくことが求められる。(世界の頂点に立てる良い機会ともなる。)

3) 予想とは異なる結果が得られた時には、その理由をよく考えること。実験(解析)方法に誤りがあるかもしれないし、再検することも必要。もし予想外の結果が正しいとすると、その理由をしっかり考えてみること。そこから思いがけない研究へと発展する可能性がある。(これは多くのノーベル賞受賞者が同じことを述べている。)

4) 研究成果は必ず一流誌に論文として掲載することを目指すこと。このような研究成果を学会(特に海外の一流の学会)で発表することはもちろん大切。ただ発表だけで満足していてはいけない。発表して衆目を浴びるのはよいが、それだけでは業績として残らない。しっかりとした英文論文としてまとめること。日本語や三流誌の論文投稿に時間をとられてはいけない。目指すは一流英文雑誌へ投稿し、そこで公表すること。そこでは研究成果を正当に評価されるし、研究業績を公的印刷物として後生に残すことができる。

5) 研究テーマやその対象は熟慮すること。循環器領域を例に挙げると、欧米に多い虚血性心疾患などの臨床研究では、かなりエネルギーを注いで覚悟していかないと、競争に負けてしまう。その点では日本に多い疾患を対象とすることは高いレベルまで研究を達成することができるし、日本から世界に発信する価値も高い。いろいろな角度から独創性の高い研究テーマを選択していくことも必要。

6) 大きな研究テーマでは共同研究体制をとること。研究は単独で行うのではなく、共同で行うことが多い。評価する側も単独施設の研究よりは、多施設での共同研究が説得力もあり、高く評価する。そのために周囲の研究者と常に情報を交換し、連携体制で研究を遂行すること。特に大きな大学の場合、関連の教室や、あるいは他部局と連携することが大切。場合によっては大学の垣根を越えて、複数の大学の研究者と共同研究をすることもある。研究費獲得についても複数の教室や部局横断的な研究が有利な印象を受ける。同様に関連した企業と連携する産学連携プロジェクトも国は奨励している。

 私は幸いなことに周囲に優れた研究者や研究指導者に恵まれ、研究を遂行することができました。ここで米国におられる指導者から教えていただいた研究を推進する際の基本となる4つキーワードを記載しておきます。これらは研究を開始し、得られた結果を整理する際にきわめて重要な要点となります。

1) Was this new?(その結果に新規性はあるか?)
2) Was this true?(その結果は真実か?)
3) Was this clear?(その結果は明快か?)
4) Was this significant?(その結果は価値があるか?)

 多くの研究者は取り組む研究の新規性については十分認識していることでしょう。新規性のない研究はどんなに優れていても、単に過去の研究の追従であり、高い評価を受けません。従って研究を開始する際には、これまでの文献などを十分調査し、自分の取り組む分野で研究がどこまで進んでいるのか、を詳細に調べておくことが大切なのです。また得られた結果の信憑性については、実験や解析の追試などを行うことで確認することが大切であります。 最近STAP細胞に関する研究で、研究成果の信憑性が話題となっています。独創性のある研究をいち早く公表することはもちろん大切ですが、その信頼性を確認しておくことも研究者の基本姿勢として大切です。最近では研究の不正や企業との癒着による結果の歪曲などが取りざたされていて、私たち研究者をがっかりさせています。そのような不正はごくわずかであると信じたいと思います。ほとんどすべての研究者は、研究成果を誠実にまとめています。しかし得られた結果の信頼度をより高めるための繰り返しの検討は必要でしょう。
 さらにはこれらの実験結果を示す際には明確さが求められます。研究をまとめていると、つい独りよがりな結果になりやすいものです。自分ではどんなによく理解できていても、論文で公表する際には、広く理解されやすい結果の表示が求められます。また結果の羅列だけでは読者の理解は得られません。特にレベルの高い科学雑誌に投稿した際には、多数の専門的な査読者から厳しい評価を受けることになります。その際、忙しい査読者に短時間に理解を得られないと、どんなに内容がすばらしく独創性に富んでいても、説明不十分な論文、不明瞭な結果は理解しがたいという理由で採択できないと判定されてしまいます。
他方研究の価値は最終的にはその意義に大きく依存します。最終的に得られた研究成果がこれまでの研究の流れを大きく左右するような、医学や生命科学であれば疾病の病態評価や治療指針に革新的な考え方を与えるような、新規性のある内容であればすばらしいと思います。またそのような論文は高い評価を受けます。
 これら論文の新規性、信頼性、明確さ、重要性、は論文の価値を判断する上で基本的なポイントとなります。これらの基本的な観点から論文をまとめていくべきでしょう。査読する方はこれらの観点で採点をしていきます。従ってこの4つの観点は極めて重要といえます。

(その2)論文作成の心構え

 魅力ある研究を推進して、一定の成果が上がると、次にその成果を広く周知するために論文を作成して公表することになります。この論文作成は大学院での修了要件になっていますが、もちろん医学部以外の学士の卒業の際にも論文作成を求められることも多いようです。論文を意識して記載した一部は特許申請をすることもありますが、特許申請の際には論文公表を控えないといけない場合もあります。特殊な場合を除いて、ぜひ早い目に広く読まれる雑誌に論文投稿することになります。その際に前述した論文の新規性、信頼度、明確さ、重要性、は論文の価値を判断する上で基本的なポイントとなります。この基本的な観点から論文をまとめていくべきでしょう。
 論文を作成して学位論文として学部に提出する場合には、一定レベルの内容で形式が整っていれば、あまり厳しいチェックは受けないかもしれません。他方作成された論文を外部の専門雑誌に投稿すると、その雑誌の査読を担当する専門家から厳しい批判を受けます。また雑誌の担当の編集者からも種々の批判やアドバイスを受けます。建設的な意見ならうれしいでしょうが、厳しい批判にさらされることも多々あります。特に投稿する雑誌のレベルが高いほど、投稿された論文に対する評価は厳しくなり、またより多くの専門家から厳しい指摘を受けることになります。特にその雑誌が求める一定レベルに達していないと、厳しいコメントを受けた後に、priorityの高さが不十分であるとのことで不採用(reject)となることも多いです。それだけに厳しい評価を受けた後にその論文が採択(accept)される時の喜びはひとしおです。若い研究者にはこの論文が採択された時の心地よさ、達成感をぜひ味わってもらいたいものです。
 私自身、論文を数多く公表してきただけでなく、共同研究者として仲間の論文を一緒に作成した経験も数多くあります。また投稿された論文を評価する側の立場も務めてきています。また主要な欧米雑誌の編集委員(Associate Editor)を務め、最近では日本の主要な学会の学術雑誌の二つの編集長(Chief Editor)も務めています。編集作業の多くは、投稿されてきた論文を評価して、良い論文を選んで採択したり、逆に採択レベルに達していない論文を不採用とする決定をしたりするのが主な仕事となります。とりわけ魅力ある論文を選び、その内容の加筆修正をお願いして、価値の高い論文を雑誌に掲載することは、達成感のある魅力ある仕事です。価値ある論文を掲載すると、広く読まれて他の論文に引用される回数(Citation)も増え、最終的にその雑誌の価値が高まります。
 編集長の経験もあるため、関連学会でよい論文を掲載する方法、なる講演をしたこともあります。私の親友で同じ研究領域でトップの雑誌の編集長をしている人とは、何度も意見交換をしています。私たち二人の意見は共通するものがあります。共に投稿された数多くの論文を査読し、評価して、最終的に投稿論文に修正をかけて掲載までもっていく(acceptする)か、あるいは掲載に至らない論文を不採用する(rejectする)か、を判断していくのです。このような作業を行ってきた経験より、よい論文の論文作成についての考え方を以下に簡単にまとめてみました。

1) タイトルは一目で内容のわかるものを選ぶこと。また要約(abstract)には要点を簡潔にまとめること、この二つで論文の採否はほとんど決まる。(査読者は多忙な方が多く、この二つが魅力的でなければ、その後は真剣に読まないで、論文をrejectすることが多い。)

2) 背景(Introduction)では、この研究を実施するに至った経緯と目的を簡潔に示すこと。どうしてこのような研究をする必然性があるのか、を簡潔にまとめる。またここで記載された目的は後で出てくる結論と整合性がとれている必要がある。

3) 結果(Results)の図表はわかりやすく整理すること。一目見て結果が把握できるように、重要なものに絞って簡潔明瞭なものが求められる。

4) 討論(Discussion)では得られた結果の重要性、新規性、信憑性を明確に示すこと。特に自分のデータを中心に語ること(日本人はつい他人の報告を中心に議論しがち。他人の論文の批評ではなく、あくまでも自分の論文であることを忘れないこと)。もちろん、過去の文献も引用して、自分自身の成果の独自性も強調すること。研究の限界の記載も重要だが簡潔にとどめて、むしろこの論文が導く将来展望を記載できればよい。

5) 結論は背景で示した研究の目的などと整合性がとれていること。またこの研究から得られた結論が生じる意義についても記載できるとよい。

 また論文を投稿する際には細心の注意を払っておく必要があります。次の点に注意してください。

1) 投稿する前に必ず関連した他の人に一通り論文をみてもらい、誤りを訂正すること。文法も含め誤りの多い論文は、査読者には真剣に読んでもらえない。

2) 指導者と相談して、その論文にふさわしい雑誌を選択した上で投稿すること。雑誌のジャンルが異なると、論文を正当に評価してもらえない。

3) 論文投稿の際には、雑誌によってはその論文にふさわしい査読者と避けてほしい査読者を事前に選ぶ方ことも可能である。その場合には大いに利用して、好意的と思われる査読者を選出、また好ましくないと査読者も選択しておくのも一考であろう。編集者の立場からすると、好ましい査読者に回すとは限らないが、好ましくないと指摘された査読者には絶対に回さないように配慮してくれる。特に研究内容で競争している施設は、意図的に論文に対して低い評価をされる可能性もある。このような不当に低い評価を受けないためにも、査読者の選定ができる場合には指導者ともよく相談をして細心の注意を払いたい。

4) 修正を求められた場合には、査読者(編集者)の意図を組んで誠意をつくして対応、修正すること。論文を査読・評価する側も誠意ある建設的な対応や修正に対しては好感をもつことも多い。その対応次第でその後の論文採択などよい結果につながる。このプロセスが3,4回に及ぶこともあるが、採択の最終返事をもらうまでは十分注意して臨んでほしい。

5) 論文が不採用の場合、反論を返してもよいが、決して感情的にならないこと。感情的な反論は全く役にはたたない。逆に反論の正当性が認められれば、異なる査読者に回してもらい、評価が異なることもある。

 学術論文の採択の有無の判定は、極めて重要であり、雑誌の編集長としてもできるだけ価値の高いインパクトがあり、かつ高頻度に引用されるような論文を厳選したいものです。ただ掲載できる論文数は限られているので、価値のありそうな論文であってもその多くを不採用しないといけません。その際にその論文の専門家である査読者の意見が大きく左右します。一般に査読をお願いする先生方は多忙な方ばかりで、限られた時間で論文を読まれます。その間に基本的な問題点や誤りを見つけたり、仮に正しくても論文の価値が不明確だとすると、多くの場合にはこれらの問題点を列挙して、論文は不採用と判断されてしまいます。だからこそ論文を書く方としては、前述した4つの要点(新規性、信頼度、明確さ、重要性)を強調することが大切だと思います。
 雑誌の編集活動を介して、国際的に種々の編集活動をしている方々と交流する機会もしばしばあります。とある著明な国際雑誌の編集長から伺った話ですが、それぞれの国から投稿されている論文について、同じ国の編集委員や査読委員に回す場合もあります。(私もしばしば日本人の論文の査読を依頼されます。)そのような場合、同じ国から投稿された論文なので、褒めて高く評価する傾向があります。自国の論文を高く評価してほしいという当然の表れでしょう。ところが日本人は、同じ日本からの論文をむしろ厳しく評価がすることが多いそうです。どうして日本人は自国から投稿された論文を支援しないで、むしろ厳しく扱うのでしょうか、とその編集長は不思議がっておられました。お互い競争の中で揉まれているだけに、他を抑えて自分だけ前に進もうといった、自己中心的な考え方がその背景にあるのでしょうか?
 私の親しい編集長の一人は、日本からの論文を好んで同じ日本人にも査読させています。高い評価をするのは当然で、その点も考慮して総合的に評価しているようでした。もし同じ日本人が厳しい採点をすれば、その論文がより厳しい環境にさらされていることは当然ではないでしょうか。編集委員や査読委員を長年勤めてきた私は、日本人の優れた論文が投稿され、掲載されていくことを見るのは大変うれしく、施設は違っても誇りに思うひとりです。査読のコメントも、できるだけ論文が改善されるような建設的で役立つ意見を記載するように努めています。私の愛する自国の論文を大切にしたいとする考え方は当然ではないでしょうか。(多少バイアスがあるのは仕方ないと思っていますし、他の国々の人は当然そのようにしているように思います。)
 最近の傾向として、一流雑誌への日本からの投稿、掲載の数が減少しているようです。研究が急速に発展している中国や韓国に比べ、日本からの論文が目立って減少しているようです。この原因はいろいろ考えられるでしょう。ひとつは最近の若い研究者に時間的ゆとりがなく、研究する時間が減少していること、また欧米を中心に多施設共同の前向き臨床試験が数多くなされていますが、日本ではそのようなレベルの高い臨床研究がまだまだ実施しにくい環境にあること、さらには仮になされたとしても優れた立案能力者や統計学者が少ないために、なかなか高く評価されていないこと、などが背景にあるのでしょう。この論文投稿数や掲載数の日本からの減少は、医学分野だけでなく、広く生命科学や理工系の学術雑誌全体の傾向のようで、苦慮しておられる中高年の研究者も多いようです。最近のゆとり教育のせいかもしれませんが、私たち研究指導者の責任も大きいでしょう。論文を書いて世界中の研究者に感動を与えるような、魅力ある内容を継続して公表していきたいものです。幸い基礎医学、生命科学では、日本の研究が高く評価されているようです。これに感化されて基礎から臨床への橋渡し研究が進むことを期待しています。何より若手の多くの研究者には、世界中の研究者から注目を集め、一流誌に論文を掲載されるような論文を作成してもらいたいものです。私たちが若い頃、最初の論文が採択された際の喜び、達成感は忘れられません。この貴重な体験をぜひ次の世代に味わってもらいたいものです。指導者の多くは若手研究者を指導することに力を注いでくれます。その指導にそって存分に威力ある研究を進めてください。

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