玉木教授から研究者へのメッセージ

(その1)大学院でさらに学ぼう

 学生は卒業後すぐに就職する人も多いですが、さらに勉学を進めるために大学院に進学します。学生時代の勉学に興味を持てば、ぜひ大学院へ進学してその興味を広げ、発展させて下さい。生命科学を含む理科系の学部では、卒業生の多くが大学院修士課程に進みます。修士の後、さらに大学院博士課程に進む人もいます。他方医学部、歯学部、獣医学部や最近の多くの薬学部では6年間コースで、卒業後の大学院は博士課程となります。
 理系の大学院修士課程修了後は、就職することが多いですが、この就職にも大学院でのは有利に働きます。最終的にはいろいろな職業に就くとしても、長い人生の中で一度くらいは最先端の研究にふれてみるのもよい経験ではないでしょうか。後述しますが、多くの歴史ある大学は大学院大学として、学部教育から大学院教育に軸足を移す大学院重点化を進めており、最先端の研究に触れるよい機会に恵まれています。
 大学院では指導教員について最先端の研究に従事し、その成果をまとめて修士論文や博士論文を学位申請論文として提出します。そして学位の審査を受け、晴れて修士号や博士号を取得することになります。最終審査では提出した博士論文について審査員から種々の質問を受け、それに対してどのように回答するかについても評価の対象となります。私達審査員の立場からすると、この論文が指導者の受け売りの研究論文ではなく、自分自身で実際に解析して考察まで書いた内容の申請論文かどうかは、その質疑応答をみるとすぐにわかります。そのような審査の場での質疑応答を聴いていると、大学院を修了しようとする院生がどの程度能力をもっているか、実際どの程度研究のことを理解しているか、さらには指導教員がどれだけエネルギー注いで指導したか、が手に取るようにわかります。多くの大学の大学院博士課程では、そこでの研究成果が一定レベル以上の英文雑誌に掲載されることを大切な条件としています。(研究を自負する大学大学院では、複数の英文論文掲載を条件にしているところもあるようです。)
 北海道大学医学研究科でも同様で、国際的に確立され査読も厳しい英文雑誌に掲載された(あるいは掲載の約束された)論文を軸にして、学位申請論文を提出することを条件としています。他方、このような研究成果を求めることも大切ですが、一方では研究を立案し、成果を出し、得られた結果を考案し結論を導き出す、といった一連の研究を完成させて論文作成を行うプロセスを学習することが大切ではないか、との意見もあります。北大医学研究科では、博士課程の4年間の中間地点となる3年目のはじめに中間審査制度を導入しています。その趣旨は、研究をまとめていく過程を評価すると共に、今後の研究の展開について教員が指導できるようにとの考えに基づいています。多くの場合は研究テーマについての進捗状況をチェックし、適切な指導を行うことが狙いです。他方、全く手つかずの博士課程の学生もいます。(その場合はさらに時間をおいて、再度審査をするようにしています。)この中間地点で自分自身の研究の進捗状況を適切な指導を仰ぎつつ、確認することは良い制度ではないかと考えています。
 医学部は薬学部、歯学部、獣医学部などと同様に学部が6年生のため、卒業後の大学院は4年間の博士課程に入ってきます。多くはそこで4年間で論文を作成して博士号を取得します。他方、保健学科や多くの生命科学系、理工系さらには文系でも同様、4年の学部では終了後、さらに勉学を進めるには2年間の大学院修士課程に入学します。その場合この2年間で修士論文を書いて修士課程修了となります。その後就職する人も多いですが、さらに研究を続けていくには修士号を取得後、3年間の博士課程に進学することになります。医学研究科の博士課程は4年間が原則です。生命科学系や保健学科などからこの修士課程に入ってくる学生もいます。大半は博士課程まで進む研究者志向の人ですが、修士課程を修了後就職する人も多いようです。多くの大学の学部では、職員は修士論文の指導と共に、その課程の合間に就職活動も支援します。私自身、自分の教室を希望して修士課程に入ってきた医学部以外からの大学院生の就職活動を支援したこともあります。他方、医学部では医師免許を持っている方がほとんどで、就職活動を支援する機会がほとんどありません。そのためこの修士課程修了後の就職活動の支援は、私たちにとっても貴重な経験となっています。企業就職のための面接の練習をしたこともあります。医学部での最先端の研究に触れた生命科学系の大学院生は、そこで貴重な経験を積んだということで、企業から極めて高く評価を受けており、就職に有利に働いているようです。
 他方、博士課程となると研究志向が強くなります。3年、あるいは4年間の博士課程を修了して優れた研究成果を挙げても、その後大学の研究職のポストが見つかればよいが、多くの大学ではそのポストが十分にあるとは言えません。そのポストに就けない場合にはポストクという形で年限を限った一時的なポストにつくことになります。この時点で海外留学をしてさらに研究を推進するのも一つの方策と言えます。一般に博士課程まで修了してから企業への就職をする場合、研究職としてどの程度就職できるか、難しい判断となるでしょう。これらの限界から博士課程へ進学する学生が少なくなっているとの報告も耳にしたことがあります。この北海道大学でも医学研究科の博士課程の人数が最も多いようです。医学研究科の場合には、その後の病院などに復帰できる可能性が高いことが一つの大きな要因でしょう。病院に臨床医として復帰する際にも、博士号を取得していると給与の点で有利に働くこともあります
 多くの大学では昔からあった教職の底辺のポストであった助手の身分の代わりに、助教というポストに変わりました。英語ではAssistant professorということになります。すなわち教育に従事することができる身分となったことを示します。この助教になるには、博士号を取得していることが必須条件となっています。大学で教職につくには大学院博士課程に進んで、博士号を取得できるだけの最低限の研究能力が求められていることになります。 大学の基礎医学では医師の資格を持たない博士号取得者がその後教員のポストにつくことも多くなってきました。国内外でも超一流の基礎医学や生命科学の研究を発表している研究者の多くは、医師の資格のない研究者です。そのような人々を優遇してさらに研究を発展させ、国家的な研究プロジェクトを持ってくることも大切でしょう。大きな研究プロジェクトでは、研究費から若手研究者を雇い入れるだけの人件費も準備できます。このようなことのできる大学かどうかは、研究主体の大学や部局となりえるかどうか、の判断のひとつの基準となるように思えます。
 歴史のある大学の多くは10年ほど前に大学院重点化しました。そのような大学では学部教育から大学院教育に軸足を移してきています。大学院教育では教室の特徴を活かした最先端の教育や研究を展開しています。学生はそこで指導を受けて、修士論文や博士論文を作成し、社会に巣立っていきます。大学院重点化された大学、その中の研究科(研究院)では、大学院生を確保することはもちろん、大学院の中で最先端の研究・教育を提供しています。価値の高い最先端の研究教育を提供している大学や部局には、国内外を問わず多くの研究生が集まります。大学院重点化された大学は、大学院生の充足率(定員に対して実際に学生が在籍している数)や研究の業績など、種々の面で競争を強いられていて、文部科学省からさまざまな角度から厳正な評価を受けています。大学ランキングなどの指標でも、大学院生の数やその中での海外からの留学生の受入数なども大切な評価対象の一つとなっています。また大学院重点化した大学では、大学院の教育を重視する結果、大学院生数やその充足率に基づいて教員数を再配分する傾向にあります。従って各大学や各研究科(研究院)にとって大学院生数がどの程度で、どのような魅力ある研究テーマに取り組んでいて、競争的研究資金をどの程度獲得しているかは、重要な課題となっているのです。

(その2)産学連携の勧め

 我が国の重要な政策に産学連携があります。日本の産業を育成し、新しい製品を世に出すため、産業界の力と日本の大学の英知を集めて研究を推進し、産業創出につなげようとするプロジェクトです。10年あまり前、私がカリフォルニア大学を訪問した際に、日本の機器メーカーがその大学と連携を組み、建物まで作って新しい製品の開発と実用化に向けた研究を進めていました。その企業とは以前より親しくしていたので、どうして日本の大学と提携しないで米国の大学と提携するのかと問うと、次のような回答が帰ってきました。日本の企業として日本の大学と共同開発したいのですが、日本の大学側に産学連携の動きが弱く、学内の研究者にそのような姿勢が見られません。また大学側で受け入れ体制も十分できていません。さらには仮によい製品ができたとしても、国内では特許取得や薬事承認に時間を要するため、海外との競争には勝てません。
 これまでの日本の体制は、厳しい批判を浴びてきています。その結果、この10年で日本もずいぶん変わってきました。山中先生のiPS細胞を使った優れた研究とその実用化では、世界の趨勢に遅れることなく、優れた技術の速やかな許認可と実用化が進められています。また国内でもさまざまなイノベーション(技術革新)を推進しようとの動きが加速化しています。数年前には医療イノベーション会議が開催され、主な大学の担当者が呼ばれて、今後の方針を相談する機会がありました。私も医学部長の代理で出席させていただきました。文部科学省や厚生労働省などの単独では限界があるので、内閣府が中心となり、省庁横断的な産学連携を進め、日本から医療についての革新的な技術を創出し、世界に発信していこう、というライフイノベーションの呼びかけでした。同様に環境改善も大きなテーマで、グリーンイノベーションとして、ライフイノベーションと共に大きな国家プロジェクトとなっています。大学側もこれらの情報を得て、国家プロジェクトを推進するべく体制を整えてきています。
 私自身、このような情勢の中、2006年から先端融合領域イノベーション創出拠点形成プログラムに関わったので、ここで紹介しましょう。このプロジェクトは産学連携を推進し、企業が大学の研究者に対し相当額の研究費を投入し、文部科学省からそれと同額の研究費 (Matching Fund)を得て、イノベーション創出に繋げようとする10年間の大きな研究でした。この研究の申請には日本の企業から毎年億単位の研究費の捻出を求める必要があり、当然先駆的な産学連携研究をしている大きな大学と、その連携の企業が対象となります。幸い私たちは、前年度から日立製作所の中央研究部との間で半導体検出器を用いた次世代PET装置の開発を進めていたところでした。他方先端生命科学ではシオノギ製薬との共同研究が進み、日本初のシオノギ研究棟が北大北キャンパスに建築され、創薬を主体とした研究が推進されていました。この先端生命の創薬と医学研究科の医療の2つの研究を合わせて“未来創薬・医療イノベーション拠点形成”として申請することになりました。
 この未来創薬・医療イノベーション拠点形成を通して、企業の研究者が北海道大学内に入り、客員や特任教員の称号を付与して、大学の研究者と共に研究を推進してきました。まさに大学研究者と企業の研究者が同じ立場で意見交換を行い、研究を発展し、新しい薬剤開発や医療機器の開発、実用化に向けて共に取り組んできました。北大で学位を取得された企業の研究者も育成してきました。何より大学側の認識が変わってきたのが変革でしたし、それと共に企業も本気で大学と共に研究を邁進できるようになっています。この数年、企業からの特許申請、取得も多く、また企業の研究者と共に、共著の論文を数多く公表してきています。さらにはこれまでのように企業単独で海外の研究機関に進出するのではなく、産学が一体となって、欧米の研究機関と共同研究を実施するような形になりつつあります。今後このような産学官の連携プロジェクトが盛んになり、日本の大学と企業が互いに協力して、その成果を世界に発信できるようになると確信しています。
 そもそも大学は、企業ではできない基礎的な研究を推進すること、そして優れた人材を育成していくことが大きな役割でしょう。このような大学での成果を受けて、企業で研究成果から製品開発など企業の発展につながりますし、大学で育てた優秀な人材を企業で活用することにもつながります。これらの点で産学連携は今後も大きな役割を演じていくべきでしょう。

(その3)研究者としての留学の勧め

 より大きな視野に立って物事を考えるという意味では、ここで述べる海外留学はきわめて貴重です。北海道大学の前身である札幌農学校2期生の新渡戸稲造先生が、“われ太平洋の懸け橋とならん”と語っておられます。私自身大学卒業後に、優れた指導者に囲まれて育った結果、若い頃から自分の視野を広げるため、留学することにあこがれてきました。私は人生のうちで3度留学をしています。それぞれに自分の人格形成に、研究業績の展開に、さらには管理職としての能力向上に役立ちました。ここでは研究者としての留学について紹介します。
 大学で教育研究に従事される方々の中にはその間に欧米に留学される方も多いでしょう。この留学は自分の研究の推進のためにも、世界的な研究者のネットワークの構築のためにも、さらには自分自身のキャリアアップのためにも価値は高いです。私は周囲の研究者に留学を強く勧めてきましたし、実際多くの教え子の留学を支援してきました。
 最近日本から研究発展のための留学者数が減少傾向にあるようで、憂慮しています。確かに世界の一流の研究施設で研究を開始し、成果を上げることはかなり厳しいものがあります。まして語学の点でハンディキャップをもつ日本人は苦労も多いかもしれません。でもこれまで私たちの世代は大きな努力を払って、それなりの成果を上げてきました。日本人研究者はたいてい大きな成果を上げています。またそのような研究施設で日本人の留学生を持った経験のあるところでは、また次の留学生を喜んで引き受けてくれます。ただ近年そのような留学しようとする努力家が少なくなっているのは残念です。一流の研究施設の方々とよく話をしますが、ごく親しい友人からよく耳にするのは、“アジアからの留学生はますます増加の一途をたどっている。でもその多くは中国、韓国からで、日本の留学生の数は以前に比べて減少しているようだ。また一流の論文の数についても同様の傾向がある。いったい最近の日本はどうなっているんだ。“このようなコメントを聴くたびにつらい思いになります。最近の世代は自分の人生の夢を小さくまとめようとする傾向があるのでしょうか。このままでは研究分野で一流であった日本は、次第に二流、三流に落ち込んでいくのでしょうか。留学は研究の発展はもちろん、自分自身のためにも獲得するものは大きいです。現在研究に従事している人はもちろん、これから研究を推進しようとする若手の人には、ぜひ人生設計の中で海外の一流の研究施設に留学することをぜひ目指してほしいものです。また留学された方にはその経験を活かして、自分の研究をさらに発展してほしいですし、さらに自分の経験を後輩たちに伝えていってほしいと思います。 研究者として留学する場合には、学生で留学する場合とは心構えは多少異なってきます。特に受け入れる側としては、当人がどれだけ研究能力があり、どの程度研究を発展してくれるか、さらには周囲に対し研究を促進してくれるプラスの影響を与えてくれるか、を注目しています。その意味で日本の指導者からの強い推薦状が役立ちます。留学の機会を得た人は、自分の留学中に存分に周囲の研究者と意見交換をして、自分自身の研究の発展はもちろん、周囲の研究にも刺激を与えてほしいものです。一から新しい研究に取り組む人もあるでしょう。新規スタートの場合でもこれまで日本で学んできたことが役立つことが多々あるものです。決して自分を卑下するのではなく、自信を持って臨んでほしいと思います。
 私自身の留学中は、本当に有意義な研究生活を送ることができました。帰国後は自分だけでなく、若手の育成にも努めてきています。もちろん留学も推奨してきました。留学から帰国して約30年になりますが、この間20名を超える留学生を欧米に送り込んできました。私は留学生を派遣すると、彼らの留学中に必ず留学先を表敬訪問することにしています。留学生にとっては、その留学中に指導者が訪問してくれるのは、大いに励みになるようです。また自分のかつて指導した若手研究者が優れた施設で最先端の研究を遂行しているのを見聞するのはうれしいものです。かつての自分の姿を写しているような気分になり、懐かしくなる。留学生には次のようにコメントしています。

1) できるだけいろいろな会議に出席して、自分の意見を主張してみること。特に指導者とは個別に意見交換すること、でないと日本とは異なり、欧米では自分の意見を相手に伝えないと無知扱いされる場合がある。日本人は語学力のハンディだけでなく、国民性として皆の前で自己主張することを必ずしもよしとしていない風潮はある。でも日本人の美徳とする奥ゆかしさは通じない。留学中にはこのような日本的な考え方を打ち破るべき。

2) 指導者の指示をよく聞いて、魅力ある研究テーマを選んで、成果をまとめること。特に留学期間中に遂行でき、論文作成できるような内容を選択するべき。適切なテーマを選べばきっと良い研究成果があがるはず。

3) 留学後帰国した際にその成果を国内で展開させること。帰国後の研究成果でその留学の評価が決まる。最先端の留学先で優れた研究ができるのは当然。むしろ帰国後留学で学んだ技術、考え方を生かして、魅力ある研究を国内で展開してほしい。それが本当の意味での研究留学の価値であろう。

 他方、留学先の指導者には、私自身、留学生を紹介し推薦状を書いた責任上、丁重に挨拶をすることにしています。日本からの留学生は必ず留学先で優れた研究をすると確信しています。ただ他の国からの留学生と異なり、言葉のハンディキャップがあり、文化の違いがある点で、深い理解を示してほしいと思います。過去に日本人留学生を扱ったことのある指導者はよく理解して下さいますが、まだ日本人の研究者の扱いに不慣れな方もおられます。日本人留学生を引き受けて下さっている研究者には、直接お会いして日本人留学生について次のようにコメントしています。

1) 日本から留学する研究者は優秀な研究者であり、留学先でも確実によい研究ができるはず。よい研究テーマを与えてほしい。

2) 日本人は語学のハンディがあるだけでなく、奥ゆかしさを美徳としている面もあるので、皆の前では発言しないかもしれない。その場合、個別に1対1で話をしてほしい。きっと優れた考えをもっているはず。

 日本人で欧米に留学している優れた研究者を数多く見てきました。かれらの多くは留学を契機にして、その後顕著な研究をするきっかけを得ています。一部はその地に残って活躍している研究者もいますが、多くは帰国して留学で得た経験を生かした日本で魅力ある研究活動を展開しています。

(その4)北海道大学の先駆者の言葉より

 若者よ大志をいだけ(Boys Be Ambitious!) は北大創設時に訪問されたWilliam Clark博士が北大を去る際に語ったとされる有名な言葉です。この言葉は、直接指導を受けた新渡戸稲造先生が書き留めています。北海道大学の正面入り口にある中央キャンパスの芝生には、この言葉をつづった石碑があります。明治の初期から続いている歴史ある大学で学ぶ学生には、とりわけ大きな志を持って臨んでほしいとの思いを語っていたのでしょう。北大ではフロンティア精神を大学の4つの理念の一つとしています。大学に入学する学生は無限の可能性を秘めています。その可能性を少しでも実現できるように大学で勉学を進め、友人などとの交流を深め、自分自身はもちろん、社会にとってプラスとなるいろいろな経験を積んでもらいたいものです。このような経験が社会人となって生かされていくはずです。
 新渡戸稲造先生は、北海道大学の前身である札幌農学校の2期生でした。その後1884年に「太平洋の懸け橋」になりたいと私費留学をされています。1920年には国際連携創立に際して当時“武士道”の著者として高名であった新渡戸先生が事務次長のひとりに選出されています。この武士道の本は現在でも広く読まれていて、日本古来の哲学を知る上で大いに役立ちます。北大生はもちろん、多くの方々に読んでいただきたい書でもあります。特に武士が国際社会において日本人の倫理観の高さ、そして国民一人ひとりが社会全体に対して果たすべき義務について、わかりやすく書かれており、国際間あふれる説明です。これを読んで多くのアメリカ人は、キリスト教の普及していない日本において、どうして高い倫理観が保たれるのかをよく理解できたといいます。
 2010年にノーベル化学賞を受賞された鈴木章名誉教授は、北海道大学はもちろん日本の大きな誇りです。特に北大が誇りにするのは、鈴木先生がこのノーベル賞受賞に至った有機ホウ素化合物のクロスカップリング反応研究を、この北海道大学で行われた点です。2012年に私が主催した日本核医学会総会で、鈴木先生をお招きして特別講演をお願いしました。その講演の中で、“夢をいただいて研究を推進しなさい。そして研究の途中で思いがけない成果を得たら、その結果を大切にし、十分考察を加えて優れた研究に繋げなさい”と述べておられました。
 医学部卒業生はもちろん、他学部を卒業して新たに医学研究科大学院に入学した人も、そこで医学の基本思想を学んでほしいものです。また医学だけでなく、広く生命科学や産学連携に携わる人も、先端的な研究に触れ魅力ある教育を受けることで、夢と希望を抱いて取り組んでほしいと願っています。特に研究を行っていて、思いがけない発見に遭遇することもあります。その際にはその研究を繰り返して十分検証を加えること、そしてどうしてそのような結果になったのか、を熟慮すること、さらには得られた結果が社会にどのように還元できるかも考察して、その独創的な成果を世に問うてほしいものです。大学院は最高学府でもあります。そこで実施されている最先端の研究を、世界最高レベルまで引き上げていく必要があり、そのために指導教員はもちろん、若手研究者も日夜努力しているのです。
 私の所属した京都大学も北海道大学も、長い星霜を経た歴史ある総合大学です。学内では生命科学系や理工系との連携を推進しており、さまざまな先駆的な研究が実施されています。そこで勉学をする若手研究者は無限の可能性を秘めており、大きな希望をいただいて新しい研究に挑戦してほしいものです。もちろんその他の新しい大学でもそれぞれの特徴を有しており、それぞれの特徴を活用した魅力ある研究に発展させることができます。その成果を大学内ではもちろん、国内でも国際的にも通用するような高いレベルを目指すこと、あるいはそれを継続していく必要です。そこで働く大学教員は、若手研究者に的確な指導をし、研究者を育て上げることで、共に世界最高レベルを目指していきたいものです。それぞれに視野を広げ、大きな希望を抱いてほしいと思います。クラーク博士の時代からだいぶ経過し21世紀においても「若者よ大志をいだけ」と声を大にして後輩たちに伝えたいと願っています。

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